Column 豊かさを彩るフォレストガーデン

2022.10.28

「一生賃貸住まい」の落とし穴

「一生賃貸住まい」の落とし穴

マルベリーハウス代表の桑原です。

今回は「一生賃貸住まい」という選択について、マルベリーハウスの考えをお伝えしていきます。

私たちは家づくりを生業としている工務店ですが、だからといって、必ずしも「家を建てたほうがよい」とは思ってはいません。それぞれのご家族に個別の事情があり、建てたほうが幸せになれる方々もいれば、そうでない方々ももちろんいるはずです。

マイホーム購入の可否にはさまざまな判断基準がありますし、何を参考にするのかは当人次第なのですが、その中で唯一違和感を覚えるのが「持ち家か賃貸か」論争における、「一生賃貸のほうがリスクがない」という主張です。

マイホーム購入のリスク

 

著名な知識人や経済学者が、YouTubeや書籍で発言をされているので、ご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、内容をまとめると、

・ローンを組むより賃貸のほうが負担するコストが安い
・持ち家の資産価値はゼロになるので投資効果が低い
・賃貸ならライフスタイルの変化に併せて引っ越せる

おおよそ、このような主張になります。

なるほど、確かに住宅ローンとなるとお金がかかる印象がありますし、現時点で日本の住宅は二十数年経つと資産価値はほぼゼロ。賃貸のように気軽に転居するのも難しくなるかもしれませんね。

実際、そのような発言をされているのは、クレバーで判断力もあり、市場への影響力もある方々なので、これらの主張を信じて「そうか、一生賃貸のほうがよさそうだ」と判断してしまうケースも多々あるでしょう。

また、ただでさえ住宅商品は高額です。

土地の値段もなだらかに上昇傾向が続いていますし、建材の価格高騰もあります。マイホーム取得費用は昔に比べて増額しているのが現状です。

そんな状況下ですから、住宅ローンや税金など、負担しなければならないお金が増えることに不安に感じ、現状の賃貸住宅に居住し続けるという選択をされるのもまた、理解できるところです。

でも、ちょっと待ってください。賃貸住宅は本当にリスクが低いのでしょうか?

もし賃貸住宅に住み続けるなら、その選択肢を選んだ際のリスクについても、あらかじめきちんと考えておくべきです。

思うに、賃貸住宅には少なくとも三つのリスクがあります。順番に見ていきましょう。

賃貸住宅のリスク① 「払い続けるリスク」

ご自身の毎月の支払い能力を超えてしまうほどの住宅ローンは、確かに私も高リスクだと思います。
しかし、賃貸住宅に暮らすことで住宅ローン負担がなくなるからといって、賃貸の家賃を払い続けられるかどうかはまた別の話です。

というのも、30代前半で建てれば住宅ローンは70歳前に終わり。寿命100歳の時代ですから、残りの30年は住居費負担も少なく余生を過ごしていくことが可能です。

一方、ずっと賃貸で暮らすことを選択された場合には、そこから70年弱のあいだ家賃を払い続けなければなりません。支払う年数を考えたら、賃貸住宅のほうが負担が多くなってしまうケースも多々あります。もちろん、持ち家には修繕費や固定資産税などもかかりますから、もしあなたが「住居にコストをかけたくない」という目的で賃貸住宅を選ぼうとしている場合は、きちんと生涯のコストを算出して比較検討することをおすすめします。

また、住宅ローンと家賃を比較する際には、賃貸住宅の将来的な家賃は「変動するものである」という認識が必要です。

持ち家購入して固定金利で住宅ローンを組んだ場合には、基本的に住居費の変動はありませんし、30年程度の支払いを終えたら住居費は極端に下がりますが、賃貸住宅の場合は違います。

日本だけを見れば不景気極まりないのですが、世界経済の視点で見れば、景気は上昇傾向。物価は健全な値上がりを続けていますし、今後もそのような状況が続くと予測されています。
外国からの輸入に頼っている日本も必然、単価の上がった商品を諸外国から仕入れなければなりません。そのコストアップは直接商品の販売価格に転嫁されますから、結果的に日本の物価も上がっていくことになるでしょう。当然、家賃の市場価格も引き上げられていくことが考えられます。(このあたりは、前回のブログでも説明していますのでご覧ください)

つまり、家賃を払い続けるということは、物価に連動して支払額が変わる可能性を受け入れるということと同義。そのようなリスクがあることも納得した上で賃貸暮らしを選択していただきたいと思います。

ただし、住宅ローンを組んだほうが住居費が安く済むのは、日本のマイナス金利政策が実行されている間のみ。物価高に連動して今後は金利も上がっていくでしょうから、そうなった場合には、賃貸住宅にコストメリットの軍配が上がるケースも多くなるでしょう。

いずれにしても、生涯賃貸暮らしという選択をしたとしても、将来的に家賃を払い続けられるかどうかは別の問題であるということです。

賃貸住宅のリスク② 「借り続けるリスク」

 

ふたつ目のリスクは、そもそも、あなたは賃貸住宅を借り続けることができるのか? というものです。

現代社会において高齢化が進んでいるのは周知の事実ですが、高齢者の入居を拒否する賃貸物件オーナーが増えていることをご存じでしょうか。

そのような態度はけしからん! というご意見もあるかもしれませんが、実際のところ、ご高齢の入居者を受け入れることは、賃貸物件オーナーにとってはリスクを孕みます。

多くの高齢者は年金やそれまでの貯金で生活費を賄う必要がありますから、第一線で仕事をして稼いでいる人に比べると家賃の回収不能リスクが上がります。

あるいは、配偶者に先立たれた独居老人であれば、孤独死の可能性もありますし、物件の価値が極端に下がってしまうことにも繋がりかねません。

そのような理由から、将来的にお一人になった場合に、「住まいを借してもらえない」「オーナーから退去を願われる」という可能性があることも考えておかねばなりません。

もちろん、福祉的なセーフティネットはゼロではありませんから、入居拒否をされた方々でも暮らしていくことはできると思いますが、その人が若かりし頃に思い描いていた老後の暮らしとは大きく異なる状況であることは間違いありません。

そのようなことも考えると、ローンさえ払い終わってしまえば誰から文句を言われることのないマイホームが、かえってリスク対策になることもあるわけです。

もちろん「お子さまに面倒を見てもらう」「老人ホームに入る」などの選択肢もあります。ただ、将来的にお子さまと同居されるなら親子間・兄弟姉妹間での認識の統一が必要になるでしょうし、老人ホームに入る場合にはそれなりの金銭負担も発生します。

若いうちだけでなく、老いてからの生活についても、今のうちに考えておいていただくことが重要なのです。

ちなみに、2022年6月に公開された「PLAN 75」という映画も高齢化社会について示唆に富む内容でしたので、機会があればぜひご覧いただきたいと思います。

賃貸住宅のリスク③ 「居住環境のリスク」

 

三つ目のリスクは、賃貸住宅で果たして「快適な暮らし」が実現できるのか? ということです。

日本の家は、夏暑くて冬寒いと言われます。これは何も、戸建て住宅に限ったものではありません。

賃貸住宅は物件オーナーの投資でもあるため、利益を出すために建築コストを抑えていく傾向にあります。断熱性や気密性など、住まい手の快適さや光熱費負担軽減につながる部分は、ほとんど無視されているのが現状です。

こればかりは体感していただくしかないのですが、適切に性能が高められた住まいは、寒さ暑さをほとんど感じることがありません。高性能住宅では暖冷房費も削減できますから、エネルギーコストは賃貸住宅の時よりも下がります。
賃貸住宅でよく見る窓辺の結露もかなり軽減され、窓際や壁際のカビに悩まされることもなくなります。

お住まいの賃貸住宅にストレスを感じていない方ならば、そのまま住み続けるのもやぶさかではないのかもしれませんが、それは快適な居住環境を知らないからできること。国は高性能な住まいの普及を目指していますから、いずれ快適な住まいが周りに増え、それを体感してしまった際には、ご自身の居住環境の劣悪さに驚くことになってしまうかもしれません。

本当は、高性能な賃貸住宅が普及していくといいのですが、物件オーナーや施工会社が住宅性能の知見を持っていただけないと、なかなか実現が難しいですね。

いずれにしても、身体的・精神的にストレスフリーな状態は、快適で健康的な暮らしに直結します。私たちは日々、幸せになるために生活を営んでいるわけですから、根本的な居住環境から改善していくことは、非常に大きな影響があるということを、ここでは強くお伝えしておきたいと思います。

ちなみに「快適な室内環境」を体感したことがない方は、ぜひマルベリーハウスのモデルハウスにお立ち寄りください。きっと違いを感じていただけるはずです。

ということで、あらためて、持ち家と賃貸住宅のメリット・デメリットを整理させていただきました。

立場上、少しマイホームを推奨するほうに偏っているかもしれませんが、結局のところ、これらの選択はあなたご自身やご家族の価値観次第。一部でも、参考になる箇所がありましたら幸いです。