Column | 豊かさを彩るフォレストガーデン |
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2021.01.24
仕事柄、浜松市内を車で移動するケースが多いのですが、最近また増えてきたな〜と感じているのが「あなたにピッタリの住宅会社を探しますよ」という無料の住宅相談所。
相談者さんの希望のおうちを聞いて、そのイメージに合うハウスメーカーや工務店を相談してくれるという、アレです。
運営会社を聞いてみると、FPの事務所や住宅情報誌、住宅設備業者、生命保険代理店、コンサルティング会社などさまざま。はては、住宅会社が運営しているものまであります。
右も左もわからない家づくり。確かに、誰かに相談できたらいいな、とは思いますよね。
「第三者が無料で相談に乗ってくれて自分に合う会社を紹介までしてくれる!」
ということで、それらのサービスを使う人々が増えているのでしょうし、だからこそ多くの事業者が、次々と相談所を開設していくのだと思われます。
でも、ちょっと考えてみてください。
その相談って、本当に無料なのでしょうか。
弊社はそれらの紹介ビジネスに登録していませんし、内情についてはわかりません。マイホームを検討している方が相談に行くことも、別にダメだと思っているわけでもありませんが、考えれば考えるほど「無料だとは思えないんだけどな…」というふうに思ってしまうのです。
ということで今回は、この『無料住宅相談所』ビジネスについて考えていきたいと思います。
とはいえ、なにせ弊社は部外者。内情をすべて知っているわけではありませんし、ここで語っている内容についても、想像の域を出ない部分もあるということは、あらかじめご了承いただければと思います。
さて、地域にある無料の住宅相談所の動きを見てみると、セミナーを開催していたり、イベントを実施していたり、わりとアクティブに集客をしていますね。
スタッフも一つの拠点に数名おられるようですし、週末には各種イベントのチラシを入れていたりもします。
またHPもキレイに作られており、その上、お店自体もそれなりに好立地ですから、ざっくり計算するだけでも、かなりの経費がかかっているな、という印象です。
それなのに、相談は無料…。どこで利益を出しているのでしょうか。まさかボランティア? 世の中、奇特な人がいるものですね〜。笑
…なんて、そんなわけありませんよね。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、これらのビジネスはいわゆる成果報酬型。
相談に来たお客さんを住宅会社に紹介し、そのお客さんが成約したら住宅会社からマージン(手数料)をもらう、というお金の流れになります。
紹介できる住宅会社は基本的には登録制になっていて、その成果報酬型のスタイルを了承した住宅会社のみ、相談所が紹介してくれます。
相談所が紹介できる住宅会社はHPで列記されていたりもしますが、だいたい20〜50社くらいでしょうか。(その中には大手ハウスメーカーも入っていたりします)
では、肝心の成約手数料がいくらくらいかというと、聞くところによれば請負金額の3〜5%が相場のようです。3000万円の家だったら90〜150万円ということですね。
考えていただきたいのは、その3〜5%という金額のコスト感。「たかだか数%じゃん」と思われるかもしれませんが、実はこの90〜150万円のコスト、私たちのような工務店にとっては、非常に大きい金額です。
工務店経営に携わっている者でなければ分からないとは思うのですが、その額の手数料を毎回支払うとしたら、請負金額に上乗せしないと最低限の粗利益を確保できません。経営が成り立たなくなってしまうレベルのえげつないコストです。
もちろん、元から利益率の高い住宅を販売している住宅会社ならば上乗せする必要もないかもしれませんが、それほどに住宅販売時の利益率が高いとしたら、それはそもそも適正な金額なのか?とも思います。(HMさんなどはもともと利益率も高いし、資本も大きいし、広告宣伝費も莫大なので、そのくらいの金額は大したことがないかもしれませんが……)
住宅相談所のHPを覗いてみると、成果報酬の事は一切うたっていない所もあれば、広告宣伝費として工務店からお金をもらうと書いてある所もあります。
そしてこのあたりからきな臭くなってくるのですが、「見積もりには一切この金額は上乗せされません」なんて記載もあります。
これ、本当にそうなのでしょうか?
そもそも1件の家を成約するために住宅会社は請負金額の3%~5%もの広告宣伝費を掛けることはありません。(各社によって広告宣伝費の掛け方はまちまちなので、少なくとも弊社は、ということではありますが、おそらく多くの会社も同様だと思われます)
もし弊社が仮に住宅相談所に登録したとして(しませんけど)、「見積もり金額に成功報酬の金額を上乗せしますか?」と問われたら…「上乗せします」と即答するでしょう。
前述の通りですが、3~5%の手数料というのはそれくらい大きな金額なのです。その分利益を削るなんてことは考えられません。
住宅相談所に登録しているほとんどの会社は手数料を上乗せしていると思うのですが、お客さん側も運営側も、上乗せされているかどうかを証明するすべもありませんから、お客さんとしても若干の不信感はありつつも結局うやむやになっている、と言うのが相談所ビジネス現在の状況ではないかなと思います。
相談所ビジネスの仕組みについても、多少の疑問が残ります。
例えばローコスト住宅と高性能住宅を比べた時に、その販売価格の差と同じレベルで利益額にも幅があるわけではありません。
1500万円の家と3500万円の家を比べて、3500万円の家が極端に利益額が多いわけではないということですが、成果報酬が3%だとしたら、1500万円の方は45万円、3500万円の方は105万円を相談所に支払わなければいけません。
ですので、弊社のように「初期コストをきちんとかけてライフサイクルコストで判断しましょう」と勧めている住宅会社の方が、手数料負担が大きくなるというデメリットがあります。
重ねて言いますが、初期コストがかかるのはそれだけ高品質・高性能な材料を使い、それを活かすために手間をかけて家をつくっているからで、利益率が高いわけでもなんでもありません。(もちろん、そういう会社がないわけではありません…)
いい家を建てている方がコスト負担が大きくなってしまうようでは、相談所に登録するのは安くて短命な家を建てている住宅会社ばかりになってしまいます。
実際、私の周りの、高性能な家を建てている工務店は、ほとんどそれらの住宅相談所には登録していないように思いますし、弊社が最低基準だと思っている長期優良住宅を標準仕様としている住宅会社も、あまり登録していないように見受けられます。(残念ながら、長期優良住宅風の家を建てている会社はいくつもありそうでしたが…)
また、相談所で対応してくれるスタッフは、短期間の研修とマニュアルを貸与されたアルバイトさんというケースもあるようです。
「家づくりのプロがお客さまの要望を詳細にヒアリングします!」とPRしていても、結局のところ建築素人。住宅会社の良し悪しや特徴を、本当の意味で理解しているとは到底思えません。
一部、建築士の資格を持っているスタッフが対応してくれるケースもあるようですが、本当に家づくりに精通している優秀な建築士なら、そもそも本業で引っ張りだこなはずです。あまり期待しない方がよいでしょう。
これは私見ですが、資格と家づくりのスキルはリンクしません。資格がなくてもいいと言っているわけではなく、建築士の資格を持っている人がすべて住宅設計のスキルが高いわけではないということです。
設計していると言うからには資格取得が必須でありますが、資格があるからすごい、と言うものではないのです。
もっと言えば、一級建築士が一番上で二級建築士、木造建築士がその下だと思われている方も多いのですが、違います。設計出来る建物の規模が違うだけで、建築士の資格に上も下もありません。余談ですが、みなさん誤解されがちな部分でもあるので念のため。
さて、相談所の話に戻りますが、そもそも論で言えば、「あなたにピッタリの住宅会社を探します」なんて謳っているものの、数十社ある住宅会社を本当に理解した上で紹介しているとはとても思えません。
紹介する会社の家づくりへの考え方、仕様、デザイン、性能、スタッフや経営者の人柄やバックグラウンドなど、きちんと把握した上で紹介しているのでしょうか? 実際には、そうではないと思います。たくさんある登録会社の細部まで把握するような時間はかけていないのでは?と個人的には思っています。
住宅相談所ビジネスは、原価がほぼほぼかからず、手数料はそのまま粗利益になります。
食べ物のように原材料費がかかったりもしないので、家賃や人件費などの固定費は変わらず、成約を増やせば増やすほど、圧倒的に利益が増えていくビジネスモデルです。
しかも、相談客は「無料」という響きにつられて無尽蔵にやってくる。こんなにおいしい商売はありません。
だからこそ、多くの事業者が住宅相談所を開設するわけですね。
さて、ここまでの論調でご理解いただけたかもしれませんが、個人的には、これらのビジネスは好きではありません。本音を言えば、なくしたいと思っています。
なぜなら、この住宅会社紹介ビジネス、仮にお客さんが家づくりで失敗したとしても、彼らは一切の責任を追いません。
「無料」と言って人を集め、実際には余計なコストを負担させ、そのリスクを自分たちは取らない、運営する当事者にとっては夢のようなビジネスです。
実際、住宅相談所の運営元から、以下のような案内メールが弊社にも送られてきました。(丸々転載してしまうと問題ありそうなので、一部意訳しています)
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「事業開始2年目で粗利ウン千万円!」
「1店舗あたり年間数十組成約!」
「成約率●●%です!」
≪このような方はぜひ説明会へ≫
・保険のお店を経営しているが顧客単価が低く、販促費に莫大な資金がかかり利益率が低い保険代理店
・不動産仲介案件の件数が伸びず、業績に不安がある不動産会社
・新たな収益を生む新規事業を検討している各種事業者
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要は住宅とは全く関係ない業種の方々、しかも本業がうまくいっていない人向けに発信しているのです。
新しいビジネス自体を否定するつもりはありませんが、これは建築実務者からみると何か釈然としない文面です。
これらの事業者は、住まい手のことはなにひとつ考えておらず、ただリスクなく利益追求を目指しているだけです。
最終的にリスクを背負うのは、我々のような建築実務者や、マイホームを夢見る真面目な住まい手の方々です。
リスクを負わずリターンを得ようとするのは虫が良すぎます。言葉は悪いですが善良なる住まい手を食い物にしているようにしか見えません。(もちろん、すべての事業者がそうだと言っているわけではありません)
こういった、おいしいところだけを吸い取るようなビジネスがなくなることを切に願っています。
ただ、私たち建築事業者も手をこまねいているだけではありません。
現在、建築系YouTubeで有名な姫路のクオホーム本田さんや全国の仲間の工務店と連携し、それらに対抗できるメディアを作るプロジェクトも着々と進んでいます。
また地元浜松の仲間の工務店さんと一緒に、YouTubeを使った情報発信もしています。一般ユーザーの皆様からの質問を受け付けて、YouTube Liveでその質問に回答するトーク番組を毎週火曜日に放送しており、住まい手が紹介所に行かずとも住宅会社を判断できるよう、知識をシェアする活動をしております。
と、ここまで相談所のことを書いてきましたが、その相談所に多くの住宅会社が登録していることもまた事実です。誰も登録しなければこのようなビジネスは成り立たないのですから、そういう意味では、迎合してしまう我々住宅会社にも課題があるのでしょう。このあたりは、業界としてもこれから考えなければいけない部分かもしれません。
いずれにしても、「相談は無料」と思って相談に行っても、実際に紹介された会社で建てるときには、通常かからないはずのコストがかかっていると考えるのがよいでしょう。
もちろん、このような構造を理解した上で、その相談所のマッチング能力を信頼し、対価としてお金を支払うのならばよいと思います。
「自分にぴったりの住宅会社を探してもらえるなら、100万円くらいは払いますよ!」という覚悟のある方なら、相談に行ってみるのもありでしょう。そこは否定しません。自己判断です。
というか、相談している方はみんな、その覚悟を持つべきですね。実際、紹介されたところで建てたらそれだけのコストがかかるわけですから。
他人に選択を委ねることで余計なリスクやコストを背負ってしまうということは、相談所に行くことを検討しているあなたも、まず最初に理解しておかなければいけないことだと思います。
さて、日本には昔からこんな言葉があります。「ただほど高いものはない」。本当に、住宅相談ビジネスはまさにこれかと。ぜひ、賢い選択をなさってください。
それでは、また。
マルベリーハウス
桑原 人彦