Column 豊かさを彩るフォレストガーデン

2023.08.26

地域工務店のパーパス経営

地域工務店のパーパス経営

前回のブログでは、時代の変化により、新築一辺倒の考え方から「今あるもの」に目を向けることの必要性を述べました。

家づくりの大局観
https://kuwabara-kensetsu.com/column/230706/

私自身、過去数十年にわたって家づくりを経験してきた立場から、お客さまに対して前述のような内容を提言させていただいているわけですが、意識を変えなければいけないのは、なにもお客さまだけではありません。

私たちのような工務店もまた、考えをあらためる必要があると思っています。本記事では、地域工務店の「パーパス経営」について掘り下げていきます。

パーパス経営とは

ご存じの方も多いかと思いますが、「パーパス経営」とは、組織や企業が存在する「目的」や「理念」を中心に据え、その目的に基づいて経営を行う考え方のことですね。

パーパス(Purpose)は英語で「目的」や「意図」という意味を持ちますから、企業の目的として利益を追求するだけではなく、その先にある「より高い目的」のために経営することを指します。

社会にどう貢献するか、といった内容や、気候変動対策やSDGsなど、サステナビリティにつながる経営手法として注目されているものです。

さて、住宅業界における社会貢献を語るなら、まずは現状認識から始めなければいけません。

よくよく振り返ってみると、高度経済成長以来、住宅業界は野放図に振る舞ってきました。

建てては壊し、建てては壊しのスクラップアンドビルドを繰り返し、国民の給料、財産は、「たった30年程度で壊される家」言い換えれば「30年程度で住めなくなってしまう(住みたくなくなってしまう)家」に注ぎ込まれ続けてきたわけです。

その結果が、地域で放置される空き家の数々。

耐久性が低いが故、メンテナンスのしようもないほど劣化した建物が多く残存し、その横でまた、短期間で劣化してしまう耐久性の低い、寿命の短い新築が建ち続ける世の中です。

過去数十年にわたる浪費の末、多くの国民の財産が露と消えていったと言っても過言ではありません。みんなで、貧乏になろうとしてきたようなものなのですから。

そんな状況にある住宅業界。これから少しでも良くするためには、私たち地域工務店が立ち上がらなければいけないと思うのです。

地域工務店の存在意義

あなたが、家づくりを地域の工務店に依頼する一番のメリットは、「決して逃げないこと」でしょう。

土地に根差し、地域とともに生きている私たちのような工務店は、地元の方々によって生かされているようなもの。

一生、地域のお客さまのために事業を営み続けることが前提です。

そうであればこそ、地域に「何十年経っても使い続けられる家」を増やすことが、工務店として、地域のためにできることになるはずです。

目の前のお施主さまに対して誠実に対応していくのは当然ですが、その先に地域や社会への献身があること。工務店の家づくりの本質は、きっとそこにあるのではないでしょうか。

もしかしたら多くの方は、こう考えるかもしれません。

「大手ハウスメーカーのほうが、規模も組織も大きいし、むしろ地域貢献しやすいのではないか?」と。

ですが、それは少し無理があります。

彼らはあくまで顧客第一主義。図体が大きい分、継続してきちんと利益を出さなければ社員を養っていくことはできませんし、そうなると事業活動もシビアにならざるを得ません。

直接お金をいただく相手は尊重するものの、その先にある地域のことまであまり考えられないというのが本音でしょう。

そもそも、ハウスメーカーはどうしても商業主義的になります。その地域に商圏としての魅力がなくなったと判断すれば、即座に撤退という判断もあり得ます。

もちろん、私たちが行っているのはビジネスですから、それが悪いとは言いませんが、地域に責任を持ち続けることは、ハウスメーカーでは難しいのです。

また、大手ハウスメーカーの施工を支えているのは誰かといえば、それは結局、地域の工務店、各業者、職人さんたち。

実際に地域の家守りができるのもまた、それらの人たちですから、そういう意味でも、地域の会社が果たすべき役割というものが明確にあると思います。

いい家をつくる、という地域貢献

良質なストック(中古住宅)のために長期優良住宅制度があるということも、前回のブログでお伝えした通りです。国交省としても普及を目指し、長期優良住宅の認定を取った建物に補助金を出すなど、力強く推進してくれています。

ですが、補助金のために長期優良住宅を選ぶのは、考え方としては本末転倒です。何のために長期優良住宅を建てるのか? ということを、住まい手も、私たちつくり手も、もっと意識していくべきなのです。

もちろん、補助金をいただけるのはありがたいことです。でも、そういう金銭的なメリットの有無は関係ありません。

地域の将来を見据えたら、私たち工務店は絶対に「長持ちする住宅づくり」に取り組まなければいけないのです。

未来の世代のために良質な住宅ストックを残し、家の資産価値を担保できるようにしておくこと。そうして、普通に中古住宅が流通する世の中になれば家づくりの選択肢も広がります。そのためには、最低でも長期優良住宅の認定は取るべきだと私は考えます。

家の資産価値が上がるなら、高額な住宅ローンだって怖くはありません。建物の価値が目減りしなければ、何年経っても新築時と同じような金額で売れるわけですから。

他の先進国は、実際にそうなっているのに、なぜ日本だけがそうできていないのか? 実に歯痒いところですね。

いずれにせよ、これらの現実を理解し、家づくりに関わるすべての人が同じ方向を向いて進めるようになったとき、本当の意味で地域社会はよりよいものに変わっていくのでしょう。

地域工務店も、「今だけ、金だけ、自分だけ」ではなく、その存在意義を自問自答して、自ら定めたパーパス(Purpose)に向かって事業活動していくべきだと、今、強く感じます。

地域の家は、地域の会社が建てて、地域の会社が一生面倒を見ていく。そういう時代がきています。

マルベリーハウス
桑原 人彦