Column 豊かさを彩るフォレストガーデン

2023.07.06

住まいづくりの大局観

住まいづくりの大局観

ここ数年の住宅業界の動きは、まさに激変でした。

コロナ禍による住宅特需があったかと思えば、コロナ禍による木材や建築資材の価格高騰の煽りを受けて住宅購入価格は増額傾向。

住宅ローン金利はまだ低金利で持ち堪えていますから、きちんとライフプランを組んで進めていけば怖いものではありませんが、世の中の流れ的には、金利も徐々に上がっていくであろう局面です。

そのあたりの流れは、一年前のブログでも触れている通りですね。

上記のブログを読んでいただくと、もしかしたらあなたはこう思われるかもしれません。「一年前から状況変わってないじゃん」と…。

そうなのです。

これらの物価高騰は、もはや一時的なものとは言えないということですね。

 

誰でも家を建てられる時代は終わり

住宅購入にかかる費用はコロナ禍以前と比べると、おそらく20〜30%程度は上昇しています。
ハウスメーカーや工務店が3500万円程度で提供していた高性能な家は、現在4000万円を超えるということです。

土地も、立地などによる勝ち組・負け組がハッキリしてきており、よい土地はより高値になってきている印象です。土地から購入しなければいけないお客さまにとっては悩ましいところかと思います。

さて、いずれにしても、日本人の誰も彼もが家を建てられる時代は、もはや終焉を迎えています。注文住宅は、限られた富裕層の方々しか建てられなくなりそうな気配すら感じます。この流れでいけば 新築着工棟数も、おそらく今後は激減していくはずです。

これは短期的には厳しいように感じられますが、日本の住宅市場の健全化につながる第一歩でもあります。

安かろう悪かろうの新築住宅を量産してきたスクラップアンドビルドの時代は終わり、デザインに加え、断熱性能・耐震性・耐久性・省エネ性などを兼ね備えた、良質で長持ちする住まいを普及させていくフェーズがやってきたとも言えるからです。

ちなみに、住宅政策のお手本でもあるドイツでは、注文住宅は平均5〜6千万円。パッシブハウスに至っては1億円程度の金額だと言います。日本とは物価も違えば状況も異なりますから、一概に同じとは言い切れませんが、それくらいのコストをかけて手に入れるのが「良質な新築」だということです。

この現状に対して、「じゃあ私たちはどうしたらいいの…?」と感じている方もおられるでしょう。物価上昇に対して賃金の上昇幅が少なく、住宅取得のハードルが高くなっているケースも昨今頻発しているからです。

ではどうすべきか? それは、意識改革と大局観を手に入れることではないかと私は思っています。

 

住宅ストックに目を向ける

ここからバブル期のような高度経済成長が再びあるかと言えば、それは厳しいと言わざるえません。多少の景気変動はあれど、基本的には低成長時代が続くでしょう。

新築戸建ての供給コストも高い状態で推移することを考えると、やはり住宅ストックの流通が主流になってくるはずです。

「住宅ストック」とは、今すでにある住宅建築物のこと。いわゆる中古住宅ですね。窓リノベの補助金など、既存の建物の性能を上げる動きを見るに、国土交通省、すなわち国の方向性もそちらに徐々にシフトしていることが分かります。

ただ、日本における中古住宅の利用価値は、現在そこまで高くありません。点検の仕組みもなく、メンテナンスの履歴もない。図面も残っていなければ、建てた会社も既にない。そのような状況ですから、売手側の不動産業者からすると中古住宅はまさにブラックボックス。

彼らからしたら、中古取引は爆弾を抱えるようなもので、リスクも多く、責任も押し付けられてしまう。当然、敬遠されてしまうわけですね。業者が売りたくないものは、したがって買い手にも情報が届きにくい状況になっています。

現在、中古住宅市場に関しては、中古住宅を買取りリフォームをして再販をする一部の全国展開をしている業者さんだけが一人勝ちの状態です。
ただ、それらの会社が性能面にどこまでコミットしてリノベーションをしているかわかりませんし、そのあたりも地域によってばらつきがあるのではないかと思います。

中古住宅がいくら安かったとしても、雨漏りが頻発したり耐震性が低かったり、買ってから10年も保たない家では、意味がありません。もちろん断熱性能も、極端に低いものが多いです。これは約30年前の家は法整備も、住宅を取り巻く環境も現在のように整っていないわけですからある意味仕方がないことなのです。

一方で、きちんと建てられている建物ですら、悪いものと一緒くたに値段が安いのが、今の日本の住宅業界。きちんとチェックをすることで「掘り出し物」に出会える可能性も、ゼロではありません。

あなたが、あるいは依頼する工務店が、正しく住宅の目利きをしなければなりませんが、中古住宅という選択肢は徐々に広がってくるはずです。

今までの住宅業界では、ハズレを引いてしまうリスクを敬遠して、中古住宅ではなく新築を選んできました。まだ新築が「手の届く価格」で売られていたからですね。

今や、「新築」という選択肢は、多くの方の手札からなくなりつつあります。

もちろん、今でもローコストを謳い文句にしている会社もあるかと思います。ですが、これだけ建材価格が上がってきた中で、それでも「手の届く価格」で売られている家は、果たして安心でしょうか。むしろ、それこそが大きなリスクだと思いませんか?

「これまで選択してこなかった選択肢」に、いよいよ目を向けなければいけない時代とも言えるでしょう。

 

次世代を見据えることの大切さ

時代は巡ります。

いま、私たちはこのように住宅取得に多大なコストがかかり、苦労しています。でも、もし今、少し手を入れれば十分に快適で、安心して暮らせる中古住宅があったらどうでしょう。

例えば、余計なお金をかけずに暮らせる家をご両親が残してくれていたら、きっと深く感謝するのではないでしょうか。

日本の住宅業界は、今この時まで、そのような好循環を作れずに来てしまいました。そしてここから先、その好循環を作れるかどうかは、私たち一人ひとりの選択にかかっています。

私たちマルベリーハウスも、高耐久・高性能で長寿命な住まいを作り続けています。これは、お施主さんのためはもちろんですが、その次の世代にも建物を残したいという気持ちのあらわれでもあります。

それに、良質な建物は、今後はきちんと評価されていく世の中に変わります。その時、資産価値が下がらずに売れる建物だったら、それは住まい手にとって非常に有用です。

もしあなたが幸運にも新築戸建てを取得できる立場にいらっしゃるなら、ぜひ、次の世代にも目を向けて、家づくりを考えてほしいと思います。

あなたが建てた住まいが50年後に、壊すしかない建物になるか、相続した家族に活用してもらえる建物になるか。

4000万円で建てた住まいが、50年後にまったく価値がない建物として、相続した子供たちの負債になるのか。
あるいは、その4000万円を、50年後にも4000万円や、それ以上の価値で売れる住まいにするのか。それだけの金額を子供たちに残せたら、あなたの子孫の選択肢もずいぶん広がるはずです。

繰り返しますが、今あなたが高性能な住宅にかけるコストは「次世代への投資」です。

例えば自分たちの子世代が家を引き継いだ時、数百万円のリフォーム代で住み繋いでいけたら、彼らがどれほど助かるか。

あなたの選択は、どちらの未来をつくるかの分岐点にあるのです。

次世代に思いを馳せて、100年以上の広い視野で家づくりを考えること。

今だけ、金だけ、自分だけ、と揶揄されるような生き方ではなく、周りの人々のことを考えること。

そうやって家づくりを考えてもらえたら、世の中に良質な建物が増えていくはずなのです。

私たち工務店にも、そのような社会的資産の担い手であるという意識が必要ですね。住まい手やつくり手がいなくなっても、日本に残り続ける建物をつくる。サステナブルと言うなら、そういう家を建てるべきでしょう。

そういう意味では、そもそも認定長期優良住宅の制度は、良質なストックを次世代に残すために出来た制度です。やはり、少なくとも標準で長期優良住宅の認定を取得している工務店を選んでいただくべきだと思います。

現在は、まさにサステナブルな建物が短命な建物に取って代わる「過渡期」です。

日本の未来にも目を向けて、使命感で家づくりをしている工務店をぜひパートナーに選んでいただけたらと思います。

それでは、また。

マルベリーハウス
桑原 人彦