Column | 豊かさを彩るフォレストガーデン |
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2019.11.05
「換気をするなら窓を開ければ十分では?」
「住宅に換気システムが必要なのはなぜ?」
今回はそのような疑問にお答えします。実際、換気の事をしっかり説明出来る技術者は意外と少ないのです。それ程奥が深い課題でもあります。
■もちろん窓を開ければ換気ができますが…
少しひんやりとした風が気持ちいい季節です。
春や秋の過ごしやすい季節に換気をしたいなら、窓を開けるだけで十分。
ところが、寒い冬や暑い夏には、窓を開けたくありません。窓を締め切っていると、家の中に空気の流れをつくることができず、計画的な換気を行えません。
■計画的な換気とは?
家から排出する空気と吸入する空気の量をコントロールした換気が「計画的な換気」です。
2003年に改正された建築基準法では、「2時間に1回、家の空気を全部入れ替える」(換気回数 0.5回/h以上)ことが定められています。
この法改正のきっかけは、建材などから出る化学物質VOCによるシックハウス症候群などへの対策として行われました。原則としてすべての建築物に給・排気ファンなどの機械換気設備の設置が義務付けられましたが、このような設備を使った換気のことを「機械換気」と言ったり、複数の設備で構築したシステムのことを「24時間換気システム」と呼んだりします。
なお、珪藻土などの吸放出性をことさら過大評価する事は危険です。素材での吸放出性はあくまでプラスアルファとして考えた方がいいと思います。計画換気は機械でしか実現できません。
■機械換気でなければできません
計画的な換気のためには、家の中に換気の流れをつくる給気ファン・排気ファン(どちらか一方でも可)が必要です。
「キッチンの換気扇を使えばいいのでは?」
と思われるかもしれませんが、レンジファンや、浴室の換気扇などは必要なときに局所的な換気を行う装置なので、家全体の計画的な換気にはあまり使いません。
■換気の1種、2種、3種とは?
換気システムには大きく分けて3つのタイプがあります。
●第1種換気方式: 給気と排気の両方を機械換気で強制的に行う
●第2種換気方式: 給気だけ機械換気で強制的に行う
●第3種換気方式: 排気だけ機械換気で強制的に行う
住宅では第1種か第3種が一般的です。
「Mulberry House(マルベリーハウス)」桑原建設ではダクト式の第3種(マツナガのMSデマンド換気システム)を採用しています。つまり、居室にいくつかの自然給気口を取り付け、天井裏にある換気扇によって空気を引っ張りダクトで外部に排気することで換気の流れをつくっています。
■気密性が大事です
機械換気の性能を最大限に活かすためには、家の気密性が大切です。きちんとした設計・施工によって家の気密性を高めておかなければ、計画通りの換気量を実現できません。なぜなら、カタログに載っている換気扇の風量は建物にまったく隙間がない状態(気密性能C値が0cm²/m²)を想定した数値であり、気密性能を高めれば高めるほどカタログの数値に近付いて行くからです。
気密性が低い住宅の場合、換気扇で強制的に空気の流れを起こそうとしても、隙間から想定外の空気が入ってきてしまいます。このような空気のことを「漏気」と呼びます。簡単に言うとすきま風です。
「冬にエアコンを使うと、いつまでたっても足下が暖まらない」ということはありませんか? これは、屋外の冷たい空気が家の隙間から入ってきて、下の方にたまることが原因です。
気密性の高い家なら、エアコンの運転を始めた直後こそ暖かい空気が上部にたまるかもしれませんが、その暖かい層がどんどん厚くなり、下部まで暖かくなります。
■C値とは?
建物の気密性は相当隙間面積(C値)で表します。この値は、家にある一定の風圧がかかっているときに、床面積当たりどれだけの隙間(cm²/m²)があるのかを割り出したものです。
Mulberry Houseが採用している第3種換気方式の場合、C値が1.0を下回らないと漏気が多過ぎてしまい、特に2階の自然給気口から空気がほとんど入ってきません。これは換気ができていない事を意味します。
では、C値1.0の家を建てればよいのかというと、そうではありません。新築時の測定でC値が1.0だったとしても、家の経年劣化によって30年後も1.0を保っているとは限らないからです。
Mulberry Houseでは新築時に平均で約0.5を下回るC値を実現することで、長く住み続けても1.0を下回るようにしています。
■家の気密性はどうすればわかる?
建物の気密性を表すC値は、机上の計算だけでは出せません。値を知るためには、実際に測定するしか方法はありません。
というのも、いくら設計上では高い気密性を期待できる家になっていても、家を建てる際に気密工事をきちんと行うかどうかによってC値が変わってしまうからです。
そのため、私たちMulberry Houseでは全棟で工事中と完成後の2度の気密測定を実施しております。なぜ2度行うかと言うと、工事中にも気密測定を行う事で、測定結果がいつも出ている数値より悪ければ不具合があると言う事がわかり、まだ工事中であれば修正ができるからです。完成後に不具合があっても修正できません。
いつも気を付けて気密工事はしておりますが、私も含めて人間はミスを犯すものです。絶対はないので、二度測定をしております。毎回気密測定を行う事で平均の数値をつかんでいるからこそ、出来る事です。
いくら口頭で高気密住宅をうたっても実際に気密測定を行わなければ「高気密住宅」という表現を使う事はできないと思います。ただ実際はそのような会社がある事も事実です。高気密性だけがいい家の条件ではありませんが換気扇や樹脂サッシ、空調機器などのポテンシャルを最大限利用するためには高気密は基本中の基本ですので、高気密住宅をうたうのであれば気密測定はやってしかるべきだと思います。
■換気の疑問、お気軽にお尋ねください
今回は、換気について基本的なお話をお届けしました。前半にも書きましたが換気は奥の深い項目です。私もまだまだ勉強中ですが住宅の換気の話をしっかり説明出来る会社も少ないですし気密性能の事を誤解しているつくり手側の人もたくさんいる事も事実です。
住宅の換気について関心をお持ちの方は、モデルハウスMulberry Houseにお越し頂ければしっかりとご説明いたします。またそれ以外の事について疑問がある方もぜひ一度モデルハウスの方にお立ち寄りください。
《プロフィール》
代表取締役 一級建築士
桑原 人彦
江戸時代から続く大工の家系に生まれ、設計事務所での勤務経験を経て、父親から桑原建設を継承。創業以来50年以上に渡って約700棟の家づくりに携わった経験を生かし、打ち合わせから設計、施工監理までワンストップで対応。(一社)静岡木の家ネットワークの代表理事も務める。