Column | 豊かさを彩るフォレストガーデン |
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2020.01.21
家の建築を考えている方で、間取りなんてどうでもいい、と考えている人はいないと思います。間取りが大事である事は誰もが理解しているのではないでしょうか。
ではどんな間取りがいい間取りなのか?永遠のテーマです。私が考えるに、「答えはない!」が答えではないでしょうか。人それぞれ性格、個性が違うように、家の間取りもお施主様、造る人の個性、好み、考え方がでます。また敷地もそれぞれ違いますので、100人お施主様がいれば100通りの間取りが提案されるでしょう。
正解がない中で何に重きをおいて間取りを考えていけばいいのか?
私どもでは、まず具体的な間取りの話に取り掛かる前に常にお施主様に伝えることは、「これからの家族の暮らし方を話し合ってください」、ということです。大げさに聞こえるかもしれませんが、大抵の人は人生で1回しか、家を建てません。これから建てる家で家族の新しい生活が始まるわけです。子育て真っ只中の家族、子供が巣立ち、夫婦二人だけの家族、最初から夫婦2人だけの家族・・・、家族の数だけ暮らし方があります。どのように暮らしていきたいかを考えずに間取りを考えても迷ってしまうだけです。答えは出ないかもわかりませんが話し合うこと、考えることが大事なのです。
一生懸命これからの暮らし方を考えていただいたお施主様の想いをヒアリングし、間取りを作成していくわけですが、ここからは私が、いつも間取りを考えるときに行うこと、気を付けていること、を書いていきます。
まずは現地に何度も足を運ぶことです。
晴れの日や雨の日、朝、午後など時間を変えて訪ね、アプリを使って季節による太陽の位置、日の当たり方を想定します。何度も現地に足を運ぶことで新たに発見できることもありますし、建物や配置のイメージも湧いてくるので敷地を読み込むことはとても大事にしています。
造り手によってプランニングのアプローチは様々だと思いますが、私は立面のイメージかを先に作って、間取りを考えていきます。やはり外観は間取りと同様に大事なので屋根の形、外観から見た窓の位置、壁の素材、など家がかっこよくなるように先にイメージします。
外観イメージが決まったら間取りを作っていきますが、ここで私の苦手なパターンを書きます。お施主様によっては自分で間取りを作って来られたり、過去には他社でつくった間取りを見せてきたりするお施主様もいらっしゃいましたが、個人的にはこれは止めてほしいです。
どうしてもそのイメージが頭に残ってしまい、新たな発想としての間取りを考えづらくなるからです。「自分でも考えてみます。」とおっしゃるお施主様もいらっしゃいますが、その場合はやんわりお断りします。
私の作った間取りに意見を言っていただくのは構わないのですが、お施主様の考えた間取りは、プロの私たちから見ればどこまで行っても素人が考えたものですので、やはりプロに任せてほしいと思っています。そのために私たちがいるのですから。
話が横道にそれましたが、間取りを考える時に、単純に3LDK、4LDKなどと部屋数を考えるのではなく、様々な要素を総合的に考えながら作っていきます。
要素とは具体的に、予算、生活動線、素材、デザイン等、もちろんお施主様からヒアリングした事項、そして平面的なとらえ方だけでなく、立体化したときどうなるかなどです。
家づくりは多額のお金がかかります。いくらでも予算をかけていい、というお施主様はいらっしゃらないので、当然予算の上限があります。それらを考慮し全体的な家の大きさや、使う素材などを考えながら間取りを作ります。大きすぎず、小さすぎず、住み心地、使い勝手を想像しながら各部屋の大きさを考え、組み合わせていきます。
生活動線を考えるときになるべく動線を単純化すること、回遊性を持たせること、を大切に考えます。私たちに家づくりを依頼いただくお施主様は30代の子育て世代のお施主様が圧倒的に多いです。その大多数が共働きの家庭です。子育てをしながら働くお母さんは毎日忙しいです。なるべく家事を時短させるためには無駄がなく単純で回遊性のある生活動線であることが重要です。私の家庭も子育ての時期は過ぎましたが、今も共働きです。妻も毎日忙しくしていました。そのような経験がお施主様にご提案するときに役立っていると思います。
住み心地、という観点では素材を、間取りと同時に考える事も重要です。この壁にはタイルを貼りたいなとか、天井には板を貼りたいな、とか、毎日目にする壁や床、天井などには自分の好みのものをちりばめた方が毎日の生活が楽しくなります。たくさんの好きを詰め込んだ家には年月とともに愛着が湧くでしょう。
みなさん意外と思われるかもしれませんが、窓の位置を考えることも住み心地と密接に関係してきます。どこに、どんな窓を、どのくらいの高さに取り付けるか、ということは外の景色をどう室内に取り込むか、外部と室内をどう結び付けるか、を考えることです。ということは外構植栽工事も同時に考えなければいけないということです。窓の位置がここだから、ここにこの木を植えようとか。
みなさん間取りって室内のことだけを考えると思っていませんでしたか?結局間取りを考えるということは外構植栽工事を含めた、「家」全体を考えることなのです。
最初にも書きましたが、大抵の人は人生で1回しか家を建てません。しかも多額のお金をローンで借りて建てます。一生をかけて支払っていくわけです。だから私たち造り手はそれだけの責任を負うわけです。簡単に間取り、プランなどできるわけがありません。いろんなことを考え、想像し、作り上げていきます。
よく聞くのがハウスメーカーなどでは簡単なヒアリングの後たった2~3日でプランを提案するところがあるそうです。どうしてそんなことができるのでしょうか?答えは簡単です。そのご家族のための間取りとして、作っていないからです。数あるプラン集の中から敷地に入るプランを持ってくるだけだからです。
そのことに対して感心する方もいるそうです。対応が早いと・・・
私も以前、プランニングを頼まれた方から言われたことがあります。その方はハウスメーカーにも話をしていてそちらは3日くらいでプランを持ってきたそうです。当然私はできませんので、そんな早くはできませんと正直に言いました。すると、その方はこう言いました「ハウスメーカーはできるのに、なぜ工務店はできないのですか?」。もちろんカラクリも説明しましたが、結局私の説明には聞く耳は持たず、仕事にはなりませんでした。
よく考えてみてください。
この先、何十年と住む家のプランをたったの3日で仕上げて喜んでもらるでしょうか?
私がここまで書いてきたことを十分考えたプランだと思いますか?
いたずらに時間を掛けることもよくはないですが最低限かかる日数はあると思います。
一生住む家です。色々な事情はあるでしょうが、あまり急がずにじっくりと家づくりに進めていってはどうでしょうか。私たちはとことんお付き合いする覚悟は持っています。
いつも思っていることですが、家づくりを進めるにあたってお施主様に考えていただきたいことは、どんなフローリングがいいかな、どんなキッチンにしようかな、など家造りが楽しくなることを考えて欲しいです。もちろん色んな意見を言って頂くことは構わないですし、アドバイスも致しますが、専門的なことは信頼して任せていただきたいです。そのためにはまず私たち造り手が安心して任せていただけるような専門知識を私たちが備えてなければいけません。
お施主様に、桑原建設さんが建てる家の耐震性能は大丈夫ですか?断熱性能は高いですか?と聞かれることに対して恥ずかしいと思わなければいけません。まだお施主様の信頼を得ていないということだからです。
例えば、自動車を購入するときにトヨタ自動車のディーラーに行って、トヨタの車のエンジンは大丈夫ですか?と聞く人はあまりいないかと思います。それはトヨタ自動車というメーカーを信頼しているからです。それと同じことでお施主様と信頼関係が築けていれば、家の基本性能などを聞かれる事もないし、ちゃんとやってくれているだろうと思ってくれるはずです。お施主様もよくわからない耐震性能や断熱性能の心配をするより素材や設備、デザインなどを考えて家づくりを楽しんでいただきたいです。
最後になりますが、家づくりは項目ごとに分けられるものではなくて、全てが繋がっているということをお伝えしたいです。間取りもデザインも外観も素材も外構植栽も性能も全て一体で考えていかなければいけないということです。それだけ私たちには専門知識が求められるし、センスも求められる責任ある仕事を頼まれているということだと思います。それだけにプレッシャーも感じますが、お引渡しした時のお施主様の嬉しそうな顔を見られた時の喜びもまた大きいやりがいのある仕事です。
《プロフィール》
代表取締役 一級建築士
桑原 人彦
江戸時代から続く大工の家系に生まれ、設計事務所での勤務経験を経て、父親から桑原建設を継承。創業以来50年以上に渡って約700棟の家づくりに携わった経験を生かし、打ち合わせから設計、施工監理までワンストップで対応。(一社)静岡木の家ネットワークの代表理事も務める。