Column | 豊かさを彩るフォレストガーデン |
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2019.01.24
2020年に予定されている新築住宅の省エネルギー基準への適合義務化が、延期される可能性が出てきました。
■Mulberry Houseは2012年から準備してきました
国は2012年、省エネ基準義務化に向けた工程表(ロードマップ)を公表し、2020年までの段階的な適合義務化を打ち出しました。
そのため、「Mulberry House(マルベリーハウス)」桑原建設をはじめとした静岡県西部の工務店・設計事務所でつくる(一社)静岡木の家ネットワークは、義務化を見据えた技術力の向上や知識のブラッシュアップに取り組んできました。
Mulberry Houseは早くから省エネ基準を達成し、現在は基準を上回る性能の家しか建てていません。
■義務化されるのは説明だけ?
ところが、2018年12月に開かれた国土交通省の有識者会議で同省が示した住宅の省エネ規制に関する施策の骨子案では、戸建て住宅など小規模な住宅については、適合義務化の対象から外すことが妥当とされました。
そのかわりに、建築士がお施主様に対し、省エネ基準への適合可否を説明することを義務付けるそうです。つまり「うちが建てる家は温熱環境がしっかりしていませんが、よろしいですね?」という確認をするということです。
■見送りの理由はさまざま
有識者会議では、義務化見送りの理由として、省エネ性能の計算ができる事業者が少ないことや、戸建て住宅は対象戸数が多い割にCO2削減の効果が低いことなどが挙げられました。今年10月に予定されている消費税率引き上げによる新築住宅需要の冷え込みなども考慮されたようです。
■率直に言って残念です
静岡木の家ネットワークの一員として準備をしてきたMulberry Houseとしては、2020年の義務化が見送られる公算が大きくなったことは、率直に言って残念です。
私たちは義務化について、工務店が努力し業界全体の実力を底上げする機会になると考えていました。
また、見送りは地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の目標達成にも関わる問題です。
■省エネ基準を満たさない家が建てられ続ける…
適合義務化が見送られると、省エネルギー基準に適合しなくても構わないと考える工務店が現れるのではないかと心配しています。
ということは、省エネ基準に適合せず、冷暖房をたくさん使わなければ寒さ・暑さをしのげない家が建て続けられるかもしれないということです。そのような家が住む方たちの健康に悪い影響を与えることも指摘されています。
つまり、家を建てようとする方たちを保護するという観点からも、義務化の見送りには問題があるのです。
■ハウスメーカーのシェアが高まる恐れ
ただ、「温熱環境がしっかりしていない家ですが、よろしいですね?」と説明する工務店の家がたくさん売れるかというと、そうとも考えられません。
結果として、工務店の代わりに大手ハウスメーカーのシェアが高まる恐れがあります。大手ハウスメーカーは省エネ性能を確保するための準備に抜かりがないからです。
お施主様のライフスタイルや気候にマッチした家を提供できる地域の工務店の存在感が薄れることになってしまわないでしょうか。
■国の施策変更を受けて気をつけることは?
新築住宅の省エネ基準への適合義務化が延期され、説明義務だけが課せられることになりそうなのが、現在の状況です。
もしそのようなことになった場合、家づくりでは何に注意すべきでしょう?
それについては、次の機会にお話したいと思います。
《プロフィール》
代表取締役 一級建築士
桑原 人彦
江戸時代から続く大工の家系に生まれ、設計事務所での勤務経験を経て、父親から桑原建設を継承。創業以来50年以上に渡って約700棟の家づくりに携わった経験を生かし、打ち合わせから設計、施工監理までワンストップで対応。(一社)静岡木の家ネットワークの代表理事も務める。